パラレルですよ〜 大丈夫な方はスクロール




































できれば知りたくなかった、未知の物体。


L O V E t o y .





「はたけさーん、宅急便でーっす!」

ドアフォン越しに、配達員の快活な声寝惚けた耳に突き刺さる。
それでも宅急便という単語に、何が届けられたのか悟り、カカシはペタペタと、それでもどこか浮き足だった足取りで玄関に向かった。

「はいはい、ご苦労様。サインで良い?」

玄関横の靴箱の端、常備してあるボールペンを構えてドアを開ければ、目に鮮やかな青いボーダー柄のシャツに身を包んだ、やたらと愛想の良いセールスドライバー。

「はい。コチラにお願いします」

差し出された伝票を手に取り、視線を走らせれば、差出人欄には確かに覚えのある会社の名前。
それを確認して小さく頷きを打ち、受領欄に「はたけ」と名前を書き込んだ。
サインをするのに俯き加減になるのが助かると、カカシは思う。
だって、油断すると頬が緩むのだ。
だから殊更ゆっくりと、一字一字を丁寧に書く素振りを見せて、何とか表情を引き締める努力をする。
顔の筋肉に引き攣るなと意識下で命令を下し、緩慢な仕草で顔を上げたのだ。
カカシのそんな努力が結果を生んだのか、配達員は訝しむ様子も無く、にこやかなまま荷物を手渡し、一礼して背を向ける。
配達員が車に乗り込むまでをたっぷりと見送り、カカシは荷物を抱えて家の中にとって返し、更に自室まで早足で突き進んだ。
そして一人で過ごす時の定位置と化したベッドに乗り上げ、届いたばかりの荷物を目の前に鎮座させる。
表面にペッタリとと張られた、割れ物注意の赤札と、荷札。
時間指定欄は綺麗な程に空白で、最速での配送を望んだ結果というのを思い出し、カカシはひとり笑う。
だって、まさかこんな早くから配送に回るとは、思っても見なかったのだ。
とは言え、時計の針が示すのは、朝の八時をほんの少し回った位置で。
カカシ以外の人間ならば、十分に生活圏内の時間帯である。
世間の常識を何となく思い出し、その常識の中で生活する恋人に思いを馳せるのを否めない。
もう、学生は登校時間を過ぎている。
カカシの恋人は既に、元気良く出勤し、様々な準備に勤しんでいる頃。
知らずカカシは表情を弛めて、先週末の恋人の媚態を脳裏に浮かべた。
日中の健全さと、夜の不健全さのギャップ。本人が無意識なだけ、その落差はカカシを虜にし、妙な優越感を持たせてくれる。
週末毎に訪れ、カカシを溺れさせる存在。
そんな恋人を思い出しながら、カカシは目の前の丁寧に梱包された小包を眺める。
荷札に明記された品名欄には、「OA・パソコン部品」と見る人が見たら──本当にその商品を購入している人間には大層失礼だが──あからさまにフェイクな内容。
指定通りの品名に、カカシの唇がニンマリと弧を描く。
思わずベッドに正座の姿勢で小包に向き合い、その梱包を解き始めた。
宅配便の中身を確認する作業に、ドキドキと胸を高鳴らせるのは初めてかもしれない。
段ポール製の箱。
四方を覆う白いガムテープ。
それを越えても今度は空気を内包した緩衝材が敷き詰められ、更にシート状のそれで個別に包まれた商品達。
一番上に添えられた明細兼用の内訳表を眺め、その内容と出てきた商品を個々に確認する。
ペリペリと緩衝材シートを剥がす音が小さく部屋に響き、カカシは不意に笑い出したくなった。
イイ歳をした男が一人、寝室で何をやっているのかと。
それでも内訳内容の確認は怠らず、全ての内容が一致した事に頷いた。
確認し終わった商品を、箱の中の元の位置に几帳面に戻し、おざなりに蓋をする。
視界から隠されただけで、気が逸るような胸の高鳴りはナリを潜め、カカシは落ち着いた状態で再度時計を眺めた。
約三十分──確認と称した妄想に費やした時間である。
知らず夢中になっていたらしい自分に苦笑し、立ち上がる。
当然、出勤の為の準備をする為に、である。








医院と看板を掲げているが、実際は診療所のような業務内容。
それでも医療法によれば、医療施設には診療所、病院、総合病院の三段階の区別しかなく、医院とクリニックは診療所の通称に過ぎないらしい。
ならば当医院は「〜病院」と看板を変えた方が良いのだろうかと首を捻るが、先々代からのモノなので、まあ良いかとあえて考えない事にした。
門扉の横に設置された、年期の入った看板はカカシのお気に入りで、木の板部分はヒビが入り、釘は腐食しているものの、気が向いた時にはペンキ缶を片手に、修繕したりもしているのだ。
医師が自分しか勤務していない現状から、「医院」でも構わないだろうと勝手に結論づけつつも、病床数から見る病院と診療所の境目から、位置を考えてみる。
十九床以下が診療所、二十床以上が病院、百床以上が総合病院と言われていたが、今現在はその考えも廃れ気味の傾向にある。
だが、その考え方で行くならば、病床数はギリギリ二十床有るのだが、部屋とベッドがあるだけで、シーツも枕も無いそれを、病床と呼ぶのかは知らない。
正直、診療所扱いで構わないと思うし、それ位の地元密着度を目指したいとも思っている。
先代はとっつきにくい性格を持っていた割りに、酷く好かれ、尚且つ名医と誉れ高かった──恋に溺れた馬鹿ではあったが。
先々代もまた、紛う事なき名医であり、当時盛りを見せ始めながらも、まだ貧しかったこの土地に住み着き、この医院を開業した、民衆優先的な考え方を持つ人物だった。
技術と知識は、命の為に。
そんな基本の考え方を植え付けてくれた、祖父と父。
そんな考え方を無視しかけた時期もあったが、今では自分の根底に根を張る、大事な言葉となっている。
青臭いと嗤う人も居る。
だけど、同意してくれる人だって、少なくない。
しかし、地元に密着するに従って、現在は細分化されてしまった診療科目に舌打ちしてしまう事が多々ある。
医師が一人しか居ないという事は、その一人の医師がオールマイティに全てをこなさなければならないのだから、出来ません。では済まないのだ。
内科範囲の患者の次に、皮膚科範囲、外科範囲の患者が立て続けに来るのは当たり前。一人では限界があるのは判っているが、それでも出来る限りはカバーして行きたいのだ。
溜息を吐きつつも、この仕事が好きだと思う自分に、ほんの少しだけ誇りを持つ。
だが、油断した途端、吐息は溜息に変わった。
息を吐いたと同時に、気が緩んでしまったのだ。
なるべく業務に集中するように努めていたのに、この為体。
思考が桃色に染まるのを回避する為の考え事だった筈なのにと、ガリリと無造作に頭を掻く。
気が緩んだ途端、脳裏に浮かんでしまうのは、当然の如く恋人の事で。
窓を見遣れば、秋のから冬に変わる合図にもなっている、小さな羽虫が群れを成して漂っている。
カレンダーは十月も末を示し、もうすぐ雪が降るだろう。
そして、今日は金曜日だ。
今朝方届いた宅急便、よくぞ今日届いてくれたと、心の中でガッツポーズをしたのは、自分だけの秘密で。
早ければ、今日の夜には、恋人は訪れてくれるだろう。
それが、離れの──別称、隔離部屋なのが少し寂しいが、恋人曰く、入るのに気後れせず、気持ち的にも距離的にも楽なんだそうで。
確かに母屋の玄関からは、門扉、庭、玄関と、越える部分は多いかもしれない。比べて離れのあの部屋は、勝手口から入れば後は渡り廊下を越えるだけで、誰かと鉢合わせする可能性は酷く少ないだろう。
訪問して真っ先に離れを訪れる事に寂しさを感じるが、今以上を望むのは贅沢だと、カカシは過去を振り返り、頭を振る。
一歩間違えば…否、恋人が許してくれただけであって、カカシが恋人にしてしまった事は、紛れも無く犯罪で。
拉致、監禁、強姦──否、同性相手なので、暴行に当たるのか。
思い詰めた挙げ句に起こしたその行動に、どんなに責められても、それこそ殺されても良いとさえ思っていたのに、彼は自分を許してくれた。
赦し、受け入れ、絆されてくれたのだ。
それが閉鎖された空間による、連帯意識のすり替えでも構わない。
これから先も、彼がこの腕の中に居てくれるのなら。








週末の決まり事のように、イルカは今日も勝手口から周りを伺うようにその家に入り、そっと後ろ手に戸を閉める。
極力音を立てないようにしながらもきちんと締め、内鍵をして靴を脱ぎ、誰も居ないであろう室内に向かって、小さな声で「お邪魔します」と呟き、渡り廊下へと向かう。
そこから離れまでほんの少し。
廊下の柱お隙間から見える本来の庭を一瞥し、離れ──カカシ曰く「隔離部屋」へと静かに滑り込んだ。
日常的な一連の動作のように、最早無意識に進むのは、小さな部屋の隅に置かれた小さな和箪笥。
重い抽出を引いて中身を物色すれば、既に中身は薄手の夏物からしっかりした布地厚みの秋冬物に替わっていた。
この箪笥の中に仕舞われているのは、カカシがイルカの為に、部屋着として誂えた数々の浴衣と木綿の着物。
慣れると締め付けが無く、呼吸も体も酷く楽で、イルカはこの部屋で過ごす間は、与えられたそれらを着る事にしていた。
今、手にしたのは、藍単色のもので。
立ち上がり、日本家屋特有の天井の低に圧迫感を感じつつ、一端、身に纏っていた全てを脱ぎ捨てた瞬間の開放感に、暗い部屋の中で苦笑する。
もう肌寒い季節がやって来たのだと、素肌に感じる気温に、少し震えた。
裸足の足裏には、畳の感触。
懐かしい何かを思い出しそうな感覚。
イルカの住むアパートにも、入居時には畳が敷かれていたのだが、持ち込んだ家具の関係上、畳が痛むのは明白なので、大家に交渉して畳を剥がして預かって貰い、剥き出しの板の間に絨毯を敷いた状態で生活しているのだ。
幼い頃、両親が存命だった頃、広い畳敷きの部屋で転げるように遊んだ記憶が一瞬過ぎるが、裸の現状を思い出し、イルカは箪笥から取り出しておいた藍色の浴衣をサラリと羽織る。
肌を滑る、乾いた感触。
そして帯も締めずにそのまま、離れ備え付けの狭い浴室へと向かった。
当然、下着なとという無粋なものは、用意せずに。








週休二日制の金曜日。
古い言い方をすれば花金に、イルカは脇目も振らずにカカシの家を訪れる。
この離れはイルカのお気に入りで。
カカシがイルカを攫って無体を強いた場所。
だが、今となって見れば、二人だけで閉鎖された、濃密な時間を過ごした空間として、イルカの中では位置づけられているのだ。
カカシはこの部屋から出て、母屋の方へと誘ってくれる。
勿論、母屋も嫌いでは無いのだ。
何しろここはカカシの生家で、カカシという人物を今まで育んだ空気が充満し、イルカをどこか幸せな気分にしてくれるのだから。
ただ、この離れから始まった自分達のだから。何よりも、この部屋に居る限り、カカシはイルカ以外を見る事も無く、また、他人の視線すら皆無で。
その事実が、イルカはこの部屋に囚われる理由なのだ。
そして、外界と閉鎖されながらも、飽きを覚えさせない、見事な坪庭。
計算されてトリミングを施された絵画のような空間。
この時期は垣根の向こうにススキとコスモスが共存し、不思議な光景を作っていた。
確かにコスモスの群生は、この庭にはそぐわないかもしれないと、イルカはひっそりと笑う。。
もう山間の方では雪が降ったと言う。
そろそろ浴衣一枚では肌寒い季節。
袷から入った僅かな冷気に、肌が少し粟だった。
ほんの僅かだが、空気に湿気が含まれているような感じがするから、もしかしたら雨が来るかもしれないと、イルカは垣根の手前にしなだれかかる萩の枝を眺めた。
そろそろ訪れるだろう甘い体温を心待ちに、寒さからきっちり合わせた浴衣の襟を僅かに弛めて。
と、畳がミシリと鳴る音が聞こえた。

「もう、またそんな格好して…寒いでしょ?」

咎める言葉に込められた甘い響きが、酷く耳に、胸に擽ったく転がる。
イルカの背に張り付くように抱きつく男──カカシ。
イルカの恋人であり、浴衣の送り主であり、この家の持ち主でもある。

「お仕事、終わったんですか?」

「今、何時だと思ってんのよ、ウチの診療は午後6時、たまに7時を越えるけど、急患でも運び込まれ無い限り、こんな遅くまで仕事場には居ません」

普通の個人病院に比べ、カカシの医院は少し遅く始まるのに比例し、閉まるのも遅い。
だから朝から元気な年寄りよりも、学校帰りの学生や会社帰りのサラリーマンが患者のメインとなっているらしい。

「患者さんが居なくても、する事は山のようにあるでしょう?」

「学校の先生よりは無いよ?…今、学校関係はピリピリしてるみたいだし、忙しいんじゃないの?」

「まあ…国側が急に色々な学校の問題点を浮上させて、周りもそれに踊らされてる感はあるんですが…俺にしてみれば、今更な感じで」

「ああ、確かに」

教育に知識の無い自分が軽々しく首を突っ込める問題ではないと、カカシは頷くに留め、抱き込んだイルカの体を自分に引き寄せた。
引き寄せられるまま、素直に体重を預けるイルカの頬に小さく口付けしつつも、はだけた胸元に視線を奪われる。
視覚で確認すれば、次は触覚で確認したくなるのが人の常で、カカシもご多分に漏れず、無意識の状態でそこへと手を伸ばした。
緩んだ浴衣の袷から白い手が入り込む様をまざまざと見せつけられ、恥ずかしさが込みあげる。
藍と白そのコントラストが産み出す卑猥さ。
それでも目を反らす事は出来ず、布地の下でカカシの手が蠢く様を眺めてしまう。
視覚から犯される。

「…っ」

平らな胸を這う掌の感触と、悪戯に突起を掠める指先。
途端、揺れたイルカの体に反応し、カカシが耳元に揶揄めいた声で囁く言葉。

「なぁに、イルカ先生、今のトコ、気持ち良かった?」

耳朶を優しく甘噛みしながらの囁きは、否応無くイルカの羞恥を煽ってくれた。
視覚の次は、触覚、そして聴覚。
徐々に自分を浸食してくるカカシに、イルカは小さく震える。
次は?次はどこを浸食して、埋めてくれるのか。
そんな期待が疼きとなって、知らず喉が上下した。
後ろから抱き締められているから、身を捩るしか出来ない。
でも嫌じゃない。
カカシもそれを知っているから、浴衣の下、手は無遠慮さを増す。
硬くなり始めた胸の尖りを指先で弾き、摘み、捏ねる。
与えられる愛撫に慣れた体は如実に反応を返し、カカシの腕の中でビクビクと跳ねる。

「胸だけで感じてるの?」

「や、違…っ」

「嘘、ほら、アッチは正直だよ」

耳元に囁かれ、視線を促されれば、布地を押し上げつつある自分の性器に、イルカの頬が紅潮する。

「ね、正直じゃない」

「カカシさんの…意地悪っ」

自分の体をここまで堕としたのはカカシなのにと、僅かな批難を込めて間近にある秀麗な顔を睨め付けた。

「ちょっと…その顔は反則でしょ」

羞恥からか、紅潮した頬と涙を薄く湛えて潤む瞳。

「もう、そんな目で睨んでも、可愛いだけなんだから」

「可愛い…って、カカシさん、目が可笑しいです」

「良いの。何度も言ってるけど、オレには可愛く見えるの」

潤んだ目尻に唇が押しつけられ、反射的に目を閉じれば、溢れた涙が舌先で掬われる。
気付けば、体勢は随分とずり下がり、半ばカカシに抱えられる状態になっていた。

「これから熱くなると思うけど…絶対後で寒くなると思うんですよ」

「まぁ、季節柄、これから気温が上昇するって事は無いと思いますが…?」

「母屋に行きましょ、ね、オレの布団、イルカ先生が温めて?」

甘えるような声で、カカシが囁く。
強引に連れて行く事も出来るのに、態と甘えて強請って、イルカの了承を得るのだ。
狡いとイルカは溜息をつく。
イルカの意思で、この部屋を出るという事に拘っているのだ。
そんな甘えた声でお強請りされたら、何処にでも行ってやろうじゃないかという気になってしまう。
何よりも、煽られて、中途半端で投げ出された体が辛い。
だから、せめてもの報復に、イルカは無言で体勢を変え、腕をカカシの首に絡めた。
連れて行けと、自分で歩いて部屋を出る気は無いと、伝える為に。
そして違えずカカシに伝わるのだ。
細身に見える体躯なのに、イルカ一人を軽く抱え、易々と壊れ物のように大事に運ばれる。
ふわりとした浮遊感を感じながら、イルカはそっとカカシの肩口に頬を埋めた。








母屋のカカシの部屋まできっちりと横抱きで運ばれ、そっとベッドに降ろされる。
本当に大切に扱われていると実感する瞬間。
触れる手は優しく、指先は繊細に動き、イルカの喜ぶ所を知り尽くした動きに翻弄され、気付けばあられもなく嬌声を上げて達していた。
カカシはいつもイルカを先に煽る。
快楽の波に浸らせ、溺れさせる。
繋がってもそれは変わらず、本能での揺さぶりは殆ど無く、イルカの快楽を優先する。
今日も確かにそうだった。
だけど、互いに逐情し、それでもイルカの胎がカカシをまだ欲している状態で、カカシは埋めていた萎えた性器を唐突に抜いた。

「ね…コレ、入れてみない?」

言われ、ぼんやりとした視線を向け、イルカは硬直した。
見覚えの有る、いや、実物は見たことは無かったが、昔お世話になったAVや雑誌で確かにみた事があるものが、カカシの手に握られていた。
グロテスクな形状は、この状況下で見ると、酷く凶暴な様相に見え、イルカの視線を釘付けにする。
怖いもの程、見てしまうと言おうか。
シリコンピンクの凶悪な物体──所謂、大人の玩具。

「な…ッ!?」

「駄目…?」

「駄目に決まってます!」

叫ぶように瞬時に拒絶する。
しかし、カカシは手にしたそれを残念そうに眺め、溜息を零す。

「どうしても、駄目…?」

上目遣いのお強請り。
畜生、とイルカは内心毒づく。
自分がその声と目に弱いのを知っていて、今、この場面で使うなんて。
しかもイルカの胎は食むものを求め、僅かに痙攣し、中途半端な熱が蟠っているのだ。

「ほら、丁度オレのが入った後だから、トロトロでヌルヌルだし」

言ってイルカの後腔に指を入れ、わざと音を立てながら敏感な粘膜を抉る。

「ぁ…う…」

グチュンと鳴った音に、イルカは恥辱のあまり顔を背けて震えた。
頬を赤くしながらも、太腿にまで流れた液体の感触に、小さく戦慄く。
一度体外へと溢れると、カカシの指の動きに伴って、次々と流れ出る。
まるで粗相をしたかのような気分を味わい、イルカは唇を噛んだ。
だが、確実に体は燻っていた熱を煽り、引き返せない所まで登らされる。
「ね、怖く無いから」
甘えた声、だけど後腔で蠢く指は容赦無くイルカを攻める。
酷く器用に、優しく、もどかしく動くカカシの指に、イルカの理性は呆気無く陥落し──負けた。








奇妙なうねりと、モーター音。
形状から何から、イルカにはそれが未知の生命体のように見えてしまう。
そしてイルカは、否応成しに、無理矢理大人の階段を上らされた。
気持ち的には恐怖を感じているのだが、如何せん、体は準備万端でそれを簡単に迎え入れてしまう。
絶叫を上げなかった自分を褒めたい。
否、絶叫を上げるべきだったかもしれない。
だってカカシが楽しそうだ。
竦みながらも快楽を拾ってしまうイルカの痴態に、目を輝かせながら見入っている。
終わったら絶対殴ってやると心に決め、イルカは理性を手放した。

「や、や…ッ、ソコ、駄目ッ」

「でも、イルカ先生、ココ好きでしょ? それとも、オレので直接の方が良い?」

囁かれ、必死で頷いた途端、カカシの性器に穿たれる。
散々、蠢く未知の玩具で嬲られた挙げ句、やっと与えられた生身のカカシに更に悶えながらも充足感を得る。
カカシを胎に招いた瞬間、偽物では駄目なのだと不意に思った。
満たされる。
繋がっていると、実感できる。
腕を上げ、カカシの背に抱きついて、自分を穿つ腰に足を絡めてイルカは思う。
絶頂が近い。お互いに。
高みに登った瞬間まで、お互いの体温が、肌の感触が離れないのが嬉しい。
そう思いながら、息の整わない唇で、イルカはカカシにキスを強請る。
もう少しすれば雪が降る。
去年と同じくらい、否、もっともっと降れば良い。
自分達を覆って閉ざす位に、沢山。
そしてまた、カカシと二人、閉ざされた空間を楽しむのだ。
雪が積もったなら、この母屋を真っ先に訪ねるのも良いだろう。
カカシのベッドに勝手に入り込み、素肌で布団を温めてみるのもまた一興かもしれないと、イルカは自分の想像に苦笑する。
布団の中、裸で待つ自分を見て、カカシはどんな反応をするのだろうか。
喜ぶ?呆れる?
嫌われる事は無いと思うが、多分、無駄には終わらないだろう。
そんな事を考えていれば、カカシの体温のせいか眠気が押し寄せる。
とろりとした睡魔の誘惑に逆らわず、イルカはそっと瞼を降ろした。

「ありゃ、イルカ先生、寝ちゃうの?」

大事に抱えた胸元で、眠りの狭間を揺れるイルカに、カカシは微笑む。
通販で購入した、数々の品。
何とか有無を言わせず、使用する事が出来、ほっとした。
いや、イルカは完全に嫌がっていた。
ただ、拒絶されないように、先に体の方を陥落させるという、卑怯な真似ををしたせいで、受け入れざるを得なかったのだろう。
使って見て思ったが、何となくイルカがカカシ以外の人間に犯されているようで、少し苛ついた。
しかし、そんな苛つきも気付けばイルカの媚態に払拭され、興奮材料にしかならなかった自分は、心底腐っているとカカシは自嘲する。
玩具だから良いが、これが他人ならば、医者の技術と知識を持って、相手を惨殺するだろう自覚はある。

「うーん、悶えるイルカ先生は鼻血モノだけど…これは暫く封印かなぁ?」

シーツの上に無造作に転がる、粘液塗れの大人の玩具。
滑りを帯びて鈍く光るそれらを眺め、カカシは苦笑するしか無かった。

【完】

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