通販のオマケでした。パラレルではありませんよ〜。




日常小咄1/愛の仕草と性の折り合い。





カカシと体を重ねる度、イルカは自分が浅ましい存在だと思い知らされる気分になる。
だって、男同士なのに。
しかも受け入れる側なのに。
凄く気持ち良いと感じてしまうのだ──それこそ過ぎる程に。
カカシとセックスする関係になってしまった事に後悔がある訳でも無いし、後ろめたさは在っても、恥じるつもりは無い。
恋人という関係に落ち着いたあたりから、自分が組み敷かれるのだろうと、漠然と覚悟はしていたのだから、不満もさほど無い。
だけど、男同士。
初めてカカシを受け入れた時、痛みと圧迫感に本気で死ぬ覚悟をしたのは確かで。
あの時は、吐き気すら込み上げ、呼吸が出来ずに突っ込んだままのカカシを酷く狼狽えさせてしまった事が今では凄く懐かしいと遠い目をしてしまう。
しかし初回のその行為でさえ、最終的には「気持ち良い」と感じてしまった自分が居た。
カカシの技術が桁外れなのか、それともイルカがそちら方面に適正があったのかは判らない。もしかしたらその両方かもしれないし。
それでも当時は、後腔に突っ込まれて達する事など出来る筈も無かった。

「…慣れって、怖いよな…」

知らずイルカは声に出して呟き、その声が意外な程大きく響いて、一人赤面してしまう。
そう、胎(なか)が気持ち良いのだ。
達してしまう位に。
ここ数回、際どい感覚の淵を右往左往しながらも、最終的には前への刺激で達し、後ろのみで絶頂を迎える事は無かった。
だがしかし、である。
昨日──イルカはとうとう後腔に与えられた刺激のみで、前を勢い良く解放してしまった。

「しかも、感じまくったし…」

本当に浅ましいと落ち込んでしまう。
後ろで高みを迎えた時の感覚が肌に蘇り、無意識に体が戦慄いてしまうのが否めない。
それ程に大きな波だった。
前での射精が一瞬の閃光ならば、後腔で得た絶頂感は感じている時間が異様に長い。
しかも余韻が中々抜けず、指先までじんわりと痺れて、たった一回達しただけにも関わらず、酷く怠くて指一本動かす事すら億劫だった。
そんなイルカの姿を見て、カカシが嬉しそうに甲斐甲斐しく世話を焼いてはくれたのだが、如何せん恥ずかし過ぎて、まともに顔が見られなかった。
今まで性交に、異物感や痛みが伴う事実に、とても心を痛めていたから、喜びは一入らしく。
だけどイルカ本人としては、複雑だった。
浅ましいと思うのは勿論、何よりも、自分が感じまくった場所は紛うこと無く排泄器官なのである。

「ケツで感じるってのも…なぁ」

前立腺の存在故か、今までも何度か跳ねる程の快感を感じた事はあった。
だが、達するに至らない瞬発的な快感で、昨日味わってしまった後腔のみで達する瞬間には遠く及ばない。
体が慣れたのだろうか。慣れだけだとは、どうしても思いたくは無いのだが。
だってそれならば、相手がカカシじゃなくても良い事になってしまう。
そこまで浅ましく、節操なしでは無いとは思うのだが、一瞬脳裏を掠めたその可能性が、イルカの中に小さな痼りとなって残ってしまう。

「せんせ、な〜に難しい顔、してるんですか?」

僅かな空気の振動、そして唐突に背中から抱きつく温もりに、イルカは心底驚き、体を跳ねさせてしまう。
アカデミーの保健室の窓際。
昨日の余韻のせいで体が怠く重く感じて、シフトの入っていないこの時間、イルカはここで休ませて貰おうと思ったのだ。
しかし所用で出かける保健医に、これ幸いと鍵を預けられ、イルカもまあ良いかと保健室を占拠し窓辺でぼんやりと思考を巡らせていたのだ。
考えてた内容はとても口には出せないが、それでも休息できる場所がありがたかった。
そこにカカシが現れたのである。
チラリと横目で確かめれば、保健室のドアが開いた形跡は皆無。
こんな部分で上忍の力を発揮しなくともと、イルカは小さく苦笑するしか無かった。

「ごめんね…」

抱きついた腕に力がこもり、首の付け根にカカシの吐息を感じて肌が震えた。

「…何に対しての謝罪ですか?」

謝罪される理由が判らず、思わず声が尖ってしまいそうになるのを押しとどめ、イルカは首元に揺れるカカシの髪に触れながら尋ねた。
カカシ時偶言葉が足りない。

「だって…辛いんでしょ?」
「へ?」
「その…昨日イルカ先生ってば…」
「言わんで下さい!」
「だからゴメンナサイ。イルカ先生がこんなトコでぼんやりしてたのって、オレのせいでしょ?」
「うぅ…」

謝罪の内容に混じって、昨夜の出来事を持ち出され、イルカは言葉を失って呻くしか出来なくなる。
思い出させないで欲しいのに、カカシは更に嬉しそうに語るのだ。

「先生があんなに感じまくったのって、初めてですよね」
「だから、もう言わないでくださいッ!」

自分でも浅ましいと思っている事をカカシにまで指摘され、イルカは顔を真っ赤にしながらも内心落ち込む。
同時に昨夜感じた胎内に叩き付けられた飛沫の感触まで思い出し、腰が揺れるのを感じ、そんな自分の反応に、イルカは重ねて自分嫌気が差した。

「もう言わないで下さいよ…浅ましいと自分でも思っているんですから…」

ひっそりと呟けば、カカシが唐突に頭を埋めていたイルカの首筋から顔を上げた。
あまりに突然の動作に驚き、イルカはカカシを振り返り、彼を見上げれば、何故だか困った表情のカカシが存在した。

「カカシ先生…?」
「何で?」
「え?」
「何で浅ましいとか思っちゃうの? だって、イルカ先生が感じちゃうのって、相手がオレだからでしょ?」
「あ…」
「オレの事を許容してるから、体か順応してくれたんでしょ?違うの?」

言われて驚いた。
カカシが自分の変化をそんな風に受け止めてくれていた事実を知って。
順応と言われて頷ける部分もあるが、それでもイルカは納得できない。
受け入れて感じる自分は、果たして『男』として認められるのかと、根本からの疑問も浮上してしまうのが否めず、イルカはそっと目を伏せ、カカシの視線に唇を引き結んだ。

「もー、オレ以外でも感じるんじゃないかなんて、お馬鹿なコト考えてませんよね?」
「ぇ…何で…」
「考えたんだ?」
「………」
「あのね、イルカ先生。ちょっと考えてみれば判ると思うんだけどね…う〜嫌なんですけど仕方無いか…」
「?」

聞き取れない語尾は呟きになり、カカシはため息をひとつ吐いて、イルカへ向かって腕を広げた。
まるでそこに嵌れと言わんばかりの仕草に、イルカは困惑してカカシを見上げる。

「おいで」

言葉で促されて椅子から立ち上がり、躊躇いの欠片も見せずにカカシの腕に収まる。
カカシの背中に腕を回して強く抱きつけば、殆ど存在しない身長差のせいで、丁度耳元に位置するカカシの唇から小さな笑い声が、吐息と共に耳朶を揺らす。

「イルカ先生、ちょっとこの状態で考えて」
「?」

僅かに顎を引けば、唯一あらわになった右目が、困った色を浮かべて自分を見下ろしているのが判った。

「…で、何を考えればいいんですか?」

抱きついた状態のまま体を引かれ、気付けば床の上に押し倒されていた。
天井を見上げる形を取らされながらも、カカシにしがみついた腕はそのままで、イルカは自分達が転がったせいで巻き上がった埃が陽光に反射する様を目の端で眺める。
と、カカシの右手が頬に掛かり、円みに沿って感触を楽しむように撫でられた。

「想像して。この手が、イルカ先生に乗っかってる重みが、オレじゃない誰かだと」

言ってカカシはイルカの額宛を下げ、視界を閉ざしてしまった。
目と額宛の隙間、僅かな空間でさえも額宛の上からカカシの掌が乗っているらしく、光の片鱗すら見えない暗闇。
視界が閉ざされた今、頼れるのは聴覚と触覚と嗅覚…だが、忍としての習性が身についたカカシからは、音お匂いも感じはしない。
だから頼りになるのは触れている触覚だけで。
そしてイルカはカカシの台詞を思い出す。
イルカに触れているこの手が、カカシ以外の人間のものであるとと想像しろと言う。
視覚が使えない今、想像は容易に出来てしまう。それどころか、想像は酷く鮮明に描かれてしまい、肌に触れる感触を与えているのはカカシではないと、度を超えて脳に広がってしまった。
途端、全身に震えが走り、肌に鳥肌が立つ。
自分がしがみ付いているのは、本当にカカシなのだろうかと、一端落ちた疑惑が大きく波紋を広げ、怖くなって回した手を離した。
ガタガタと顕著に震える体、恐怖に固まった間接と、否応無く鳴る噛み合わせの音。
血液が足下に向かって流れて行きそうになった時、突然目の前が真っ白に明るくなった。

「ゴメンネ…でも、判ったでしょ?」

両目を覆っていた額宛を取り去られ、眦にうっすらと浮いた涙を優しく拭われ、やっと自分の上に居るのがカカシだと確信できた。

「想像だけでもこんななのに、実際に他の男が触れたら、アナタどうなっちゃうのよ?」
「……多分、吐くだけじゃ済まないと思います」
「ね?」

優しく諭す音でカカシが囁き、唇に触れるだけのキスをくれる。
それだけで恐怖に固まった体が弛緩する。
緩やかに背中を撫でられ、額宛が取り去られて剥き出しになった額や眉間にも、カカシの唇は触れて来た。
ただ触れるだけでも、何て優しい。
何よりも、触れているのがカカシだと確認できるだけで、体の奥からトロリと蕩けそうになる感覚に、どれだけ自分がカカシを許容し傾倒しているのかが伺える。

「馬鹿な事考えないでさ、オレだけ見てなよ」

いまだ震えの残る体を宥めるように、肌を服越しに優しく撫でられ、イルカは素直に頷く。

カカシだけ。

自分に触れて良いのはカカシだけだと、噛み締めるように胸の中で呟き、何度も反芻する。
埃っぽい保健室の床の上、イルカはカカシを引き寄せて胸元に頬摺りして小さく甘える。
それを許し、甘やかして口づけまでくれる男は、確かにカカシだけなのだと、イルカは思う。
そう確信し、今までを振り返れば、カカシの仕草はどこまでも愛に溢れ、優しい。
脅えすら、感じる隙が無い程に。
男の自分を省みる余裕が無い程に、それは愛に溢れているのだ。
愛の仕草と言ってしまえる程に。
きっとこれからも自分は悩むだろう。
男としてのつまらない矜恃と、本能で。
それでもカカシが側に居る限り、その腕をイルカに向かって開いていてくれる限り、きっと大丈夫だとイルカは思う。
擦り寄ったカカシの胸に頬を埋め、深く呼吸すれば、先程は感じられなかったカカシの体臭がほんの少しだけ感じられ、イルカはうっとりと微笑んだ。

【完】

文章目次

「華王」を通販してくださった方々におつけした、オマケです〜。
…要らなかったかな?<汗
送料かけてまでお買い上げいただいたので、せめてと思って書いたんですけどね。。