通販のオマケでした。パラレルではありませんよ〜。
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ケモノの居る部屋、だけど獣は二匹で人と成る。
「悪いな、今日は駄目なんだ」
言って、イルカは困ったように笑う。
目の前には自宅まで訪ねて来た、小さな教え子達。
自分も休日だという事を知り、訪ねてきてくれたのは嬉しいが、如何せん今日は駄目なのだと、イルカは降ろし髪のまま彼等に謝る。
アパートの戸を半分だけ開け、扉と通路の間に体を挟めて対応する。
子供達に、部屋の中を覗かせない為の、姑息な予防策。
だって、中々引かない生徒を宥めている間にも、背中に感じる苛立ったような気配。
それは殺気すら纏い、イルカを圧迫する。
──この殺気が、無意識ってんだから…。
チリチリと首裏の産毛が逆立つような感覚。目の前の子供達は、恐らく、幼な過ぎて気づけないのだろう。
子供特有の、甲高いブーイングの声をやり過ごし、何とか誤魔化してお引き取り願えば、いつしか感じていた殺気は収まっていた。
代わりに漂うのは、少し拗ねたようなそれで。
自分に誤魔化されて帰った子供達にも劣らず、酷く幼い反応に、イルカは思わず笑ってしまう。
「…ほら、ちゃんと断りましたから、拗ねないで下さいよ」
玄関から丸見えの、台所と繋がった六畳間。そこから半開きの襖の向こうに声を掛ければ、モソリと動く気配がした。
「どうせ断るんだから、最初から居留守を使えば良いじゃないですか〜」
ベッドの上で身を起こし、シーツでおざなりに下半身だけを隠したカカシが、拗ねた口調でイルカを非難する。
自分のベッドで我が物顔に振る舞うカカシの態度に、イルカは苦笑しつつ答えた。
「そう言う訳にも行かないでしょう?」
子供達は総じて諦めが悪い。更に下手に忍術を習っている分始末に負えず、勝手に解錠して入り込む危険性すらあったりもする。
その辺りの事情を、実際例──要はナルトを例えに訴えれば、嫌そうに顔を顰めながらも、何とか納得してくれたらしい。
「ほら、『先生』はもう止めて…ね、続きしよ?」
当然の仕草で伸ばされた手に、躊躇い無くイルカが己の手を重ねれば、あっと言う間に押し倒された。
「また誰かが来たら面倒だから、結界張っちゃいますね」
易々とイルカを組み敷き、カカシが言う。
今度こそは途中で止めたりしないと、言外に含みながら。
途端、パキン、と空間が強ばったような感覚が肌を圧迫し、外界と遮断された事を知った。
「こういう時だけ、無駄に上忍って感じですね」
カカシの早業に、感心半分、呆れ半分でイルカは嘆息する。
「無駄って、何ですか、無駄って!」
「写輪眼のせいで、チャクラが駄々漏れ状態の癖に…無駄遣いですよ」
「良いんです。イルカ先生と過ごす以上に、大事な事なんてありませんから」
きっぱりと言い切ったカカシの台詞に、思わず頬が緩んでしまうが、それも束の間で。
緩い仕草で身を屈めたカカシが、コツリと額を合わせて、笑うのが見えた。
焦点が合わぬ程に近い距離。
だけど、イルカには知れる、その表情。
きっと、悪戯を思いついた悪童のような顔なのだろう。
しかし、イルカを見つめる視線は酷く熱っぽく、隠しようも無く『色』を含んでいた。
真っ直ぐに情欲を伝える、あから様なカカシの視線に晒され、イルカは小さく戦慄いた。
これから再開される行為への期待に。
再開した行為は、激しく濃厚で。
まさに貪り合うような状態。
今日のカカシは任務明けで、全ての事に飢えている状態で帰還した。
食欲、睡眠欲、性欲。
それら全てを順番に満たし、最後に残った性欲を、イルカを相手に満たそうとしているのだ。
イルカもまた、カカシの状態を正確に把握し、カカシの帰還に合わせて休暇を申請した。
カカシが貪る全ての欲は、自分が満たしてやりたいのだ。
求めるられるから故の義務感では無く、これはイルカが手に入れた権利なのだ。
カカシを甘やかし、満たすのは自分だけに許された権利。
任務の内容にもよるのだろうが、カカシが満たしたい欲の順位を的確に悟り、イルカは正確にそれらを差し出す。
今回ならば、最初は食欲を満たす為の温かい食事。次いで、任務中はろくに眠る事の出来ない彼を諭し、宥めてゆっくりと眠らせて、最後に残ったのが、性欲。
最後に残った分、それは酷く緩やかに、しかし内容は変質的な程に執拗で、貪欲だった。
「イルカ先生の前だと、飼い慣らされたケモノみたい…お預けって言われれば良い子で待つし、良しって言われれば遠慮無く飛びかかって」
アレのどこが良い子だったと言うのか。イルカはカカシの手に翻弄されながら考える。
待て、が出来ただけでも僥倖なのかもしれない。
それよりも、カカシの台詞に、正直またかと思ってしまう。
カカシはよく、自分自身に対して『獣ケモノ』と言う表現を使う。
本能でイルカを組み敷いたり、イルカの前で飼い慣らされた様子を見せた時に。
特に頻繁に使われるのが、セックスに纏わる時で、イルカはその単語を耳にする度、思わず微妙な表情をしてしまうのだ。
カカシの事を、馬鹿だなぁ、と思いながら。
満足して眠る男は、まるで満腹の獣のようで。
窓から入る貧弱な街頭の灯りに照らされ、そこだけが別世界のように、切り取られた空間にも見えた。
イルカはそっと近づき、寝顔を覗き込む。
「満足そうな顔して」
苦笑し、屈んで頬に口づけを落とす。
「アナタは自分を獣、獣って言いますけどね」
囁くような声で、イルカはそっと告白する。
深い寝息は変化を見せず、眠りから覚める事も無いまま、カカシはその言葉を知る事は無い。
カカシにとって、イルカの気配は、最早馴染み深いもので、己の領域に入っても警戒される事は少ないのだ。
イルカの傍は安全な空間、そう認識されているようで、妙に嬉しいと思ってしまう。
「アナタと番った俺もね、立派に獣なんですよ」
鈍く銀色に反射する髪をかき上げ、現れたカカシの耳朶にそっと囁く。
物騒な内容の、酷く優しい音。
それは眠るカカシの鼓膜を振るわせ、理解されぬままその体に浸透するのだ。
無防備に横たわる体に沿い、イルカもそっと横たわり、布団を引き上げる。
すっぽりと二人を覆った、小さな空間。
やんわりとカカシを抱き寄せれば、体温に懐くように擦り寄る様が、慣れた家猫のようで可愛いと思ってしまう。
狭く、安普請なアパートの一室。
そこに二匹の獣が眠る。
番いの獣は互いの体温のみを安息の地とし、他者の介入は許容しない。
二人で居れば、そこが楽園。
抱き合うその腕こそが、枷であり、檻であり、鎖となる。
そんな事を考えながらイルカは微睡み、寄せる眠りの波に逆らわず精神を委ねる。
触れ合った、確かな体温に感じる幸福感。
充足した精神、疲労した体。
眠りは優しく二人を包み、満ち足りた休息を与えてくれるのだった。
【完】
「死んでも良い」を通販して下さった方へのオマケです
つか、毎回コチラの配布も1桁台…(笑)