sss ≒ memo.

【no title。】 ... #25

あなたに選ばれた喜びは一瞬。 あとは地獄の苦しみばかり。 自分の才能無さばかりが自覚され、打ち拉がれた。

【うしろから。】 ... #26

背後から抱き締めるのが好きだった。
隙間無く、ぎゅっと抱え込むように。
小さな彼女を腕の中に納めて、包み込んでしまう体勢が好きだった。

だから、抱き締められるという事は想定しなかった。
自分が誰かの腕に抱き込まれ、背後から隙間無く密着される体勢なんて。

正直、抱き込まれるとは言えないかもしれない。
ほんの数センチしか違わない身長差。
これは端から見れば、しがみ付かれていると表現しても間違いではないだろう。

だけど背後から腕を回され、強く抱きつかれて気付く。
酷く安心している自分に。
彼の腕の中に収まっている事実がとても幸せで。
思わず肩口に寄せられた相手の頬に、自分の頬を寄せる。

背後から抱き締めるのが好きだった。
それは、そうしてあげたかったのも事実だが、同時に自分もそうされたかったのだ、きっと。
幼い頃、両親に甘やかされた記憶を辿って。

ほっとする。
そして、安心する。
何よりも、愛しさが込み上げる。

庇護されているような状態にも拘わらず、どうしてか嬉しい。
愛されている──何よりも大事にされている事が伝わって、恥ずかしいよりも嬉しさが溢れた。

【ぎゅ。】 ... #27

イルカ先生って、意外と甘えたさんだよね。
こうやって背後からギュってすると、自然と体重を預けてくれるの。
冬の最中、狭い炬燵の同じ空間。
後ろからイルカ先生を抱っこして温まる。
背後から入り込む隙間風から守るように、緩く、だけどしっかりと抱き込んで。
時折、ヒュウと寒々しい音が鳴ると、こちらを気遣うイルカ先生の視線が擽ったい。

──寒くないですか?

言葉じゃなく視線で問い掛ける姿に、大丈夫と笑い掛けてその肩口に顎先を埋める。
イルカ先生は体温が高いから、体の前面は湯たんぽを入れたみたいに温々。
それでも、風邪の音が鳴る度にコチラが気になるのか、イルカ先生はチラチラ視線を寄越す。
そんな様子すら可愛くて、思わず強くギュっとした。
強く抱き締められたイルカ先生は少し困った顔をしながらも、はにかむように笑って、自分のお腹に回ったオレの腕を小さく叩く。
促されて腕を解けば、唐突に温もりが消えてしまった。
あっさりと立ち上がって、イルカ先生は奥の部屋に行ってしまう。
温もりが消えた事と、イルカ先生が腕の中から去った事実が寂しくて、視線だけでその姿を追えば、隣の部屋の更に奥からゴソゴソという音。
少しの間の後、すぐにイルカ先生は戻って来てくれた。
不意にふわりと空気が揺れた。

「せめて、それ着ててください」

袖を通すように促され、背中を覆ったものの正体を知る。
厚めの綿が入った、紺色の羽織。
ちょっと年期が入った印象。

「コレ、イルカ先生の…?」

「そうですよ、去年の冬まで、それ、着てました」

俺の着古しで申し訳無いですけど、一応干してはありますからと、先生は照れくさそうに鼻の傷を?く。
確かに、箪笥の奥から引っ張り出したような様子では無く、ふわりと天日干しした布団に似た匂いと、イルカ先生の匂い。
きっと今年も着ようと用意していたんだろう。
だけど、冬になって炬燵とストーブ、そしてオレが居るから、出番が無かったに違いない。
厚い綿のお陰で、腰の辺りに吹き付けられていた隙間風は、見事に遮断され格段に温かい。
何よりもイルカ先生の匂いに包まれて、思わず口元を緩ませていれば、腕の中に温もりが戻ってきた。
もぞもぞとオレの膝の間に入り込み、綿入羽織の袖に包まれた腕を元通りに自分の胴体に誘導してこっちを伺う。
あ〜、もう! 可愛いったら!
遠慮無くギュっと抱き締めて、元通りに肩口に顎を埋める。
抱き込んだイルカ先生の頬がほんのりと赤くなってるのも可愛くて、思わずチュっとキスをすれば、首を傾けて唇をくれた。
重ねて離すだけの小さな口付けを数回交わし、また元の体勢に戻る。

イルカ先生の匂いのする綿入羽織。
腕にはイルカ先生その人を抱き締めて。
凄く幸せで温かい。
時々、甘いミカン味にキスもして、狭い炬燵にぎゅうぎゅうに2人で収まる。
窓の外は雪がちらつき、結露も伴って寒々しい光景なのに。
冬が終わらなければ良いと願う程、幸せしか無い空間を満喫した。

【オレばっかりが好きなんだ…。】 ... #28

彼に色気を感じる時点で、既に終わってると思う。
実際、野郎のイキ顔なんて気持ち悪いだけな筈なのに、イルカ先生のは煽られる。
その顔につられて中出ししてしまう位に。
正直、今までの相手は全員異性で、同性はイルカ先生が初めて。
始まりが何だったかはイマイチ覚えてないが、今となっては覚えていない事が不思議な程に彼にハマってる。

【緊縛1/ 薄翅蜉蝣】 ... #29

「縛られただけで興奮して、吊られたら次を期待して勃起する…ホント、どうしようもない淫乱になっちゃったね。しかもお尻に何か入れないと気持ちよくならないなんて、どんだけ変態なのよ。」
「ちが…っ」
「ドコが違うの? お尻にこんな尻尾を生やして、違うって否定出来るの?」
尻穴から垂れ下がるアナルビーズを引っ張り、揺らされ、その存在を自覚させられる。
「あ…っん…」
「コレをさ…一気に全部引き抜いたら、どんな感じだろうね…?」
眼下でギクリと強ばる体を嘲るように、カカシが喉奥で笑う気配。
それを肌で感じ、イルカは恐怖と期待で肌を粟立てた。
自身でも制御できない体の反応。

自分でもどうしようもない位に、この男に慣らされた。
体も、心も戒められ、捕らわれた。

【膝まづいて、その爪先に口付けを。】 ... #30

男の足だ。
恋愛フィルターが掛かっている自分の目から見てもゴツくて骨ばった、見まごう事なき、成人男性の立派な足だ。
だけどあえて、自分は彼の前に膝を折り、額付くにも似た恭しい態度を持って、そっと投げ出された裸足の爪先に口付け、愛を請う。
丸く切り揃えられた、平たい親指の爪が、とても彼らしくて知らず笑みを浮かべてしまかった。

「何…笑ってるんですか?」
「え? 笑ってました? あ〜イルカ先生の足だなぁって思ったら、何か嬉しくて、つい」
「…どこをどう見ても男の武骨な足です。それに中忍だ。あなたがひざまづく必要なんかどこにも無い」
「…そういうコト言っちゃうイルカ先生が相手だからね、オレもあえてこんな真似してるんですよ」
「どういう…?」
「確かにあなたは、ハタから見たら階級的にはオレより格下だ」
「まぁ、そりゃ事実ですけど…」
「だけどアナタは、オレの命を左右できる立場に居るんですよ」
「まさか。中忍の俺に上忍のあなたを殺す事なんて…」
「あのね、アナタが今、この足を振り上げるだけでオレに一撃食らわせる事ができる…その一撃で殺す事だってね」
「そんな事する訳無いですし、する気も…!」
「うん、判ってる。だけどアナタは普段からオレの上忍としての立場を大事にするでしょ?」
「だって…」
「イルカ先生の立場も判ってはいるんだけどね…でも、だからオレはあえてこうやってアナタに跪きたい」
「え?」

「跪き、愛を請う。舌を差し出し口付けを請う。ほら、オレの命はあなたの一存で左右される」

【恋の蜜。】 ... #31

とろりとしたそれを両掌ですくい、口に運ぶ。
喉を鳴らして飲み込めば、絡むような感覚が食道を伝い、胃の腑に落ちる。
目を閉じてその感覚を追えば、口内に残る甘み。
濃厚に甘く、ほろ苦い。

そんな夢を見た。
あなたに恋した、その夜に。

【片側交互通行。】 ... #32

どうして伝わらないのだろうと、毎日歯がみする。
こんなにも好きなのに。
その好きの一欠片すら信じて貰えない。
愛し合っているのに一方通行。
手順を踏んでお付き合いしている筈なのに、どうしてかすれ違う。
好きって言って困ったように苦笑されたら、正直悲しいよ。

ねえ、お互いがお互いに片思いって、どういう事よ?

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文章目次

携帯のメモと、手書きメモからの切れっ端。