G.




正直、自分の右手より気持ち良いセックスはした事が無かった。
女の粘膜に入り込み擦りつけ、温かくヌルヌルとねばつく感触で締め付けられれば、確かに快感は訪れる。
だけど出したら終わりだし、相手との兼ね合いもあって会話や態度でタイミングを計らなければならないのが、内心面倒臭くて。
結局没頭しきれずに、気持は褪めてしまう。
それが酷く疲れた日だったりすると、例え好きで付き合ってる女相手でも、げんなりしてしまう。
しかし、いわゆる自家発電…ぶっちゃけ自慰行為は、始めから終わりまでを自分のペースで流せ、自分の快楽に没頭出来るのだ。
無心に手を動かし、吐き出したぬめりを巻き込んで、快楽を貪り、出口を求める。
誰かを想定した行為では無い分、後ろめたさは皆無で。
ただ白濁に塗れた掌が、発散した欲と無駄になった生命を証明しているようで、ぼんやりと虚しい気持ちにはなったが。




「は、…ぅんん…っ」
しがみついた背に指を食い込ませ、襲う波に耐える。
ガツガツと穿たれて腰が浮き上がり、そこをすくい上げるように持ち上げられ更に深く抉られる。
「イ、ルカせんせっ、大丈夫? 気持ち良い…?」
外では滅多にかかない汗を滴らせ、真上からカカシが尋ねる。
イルカの腰骨を痣ができる程強く掴み、引き寄せ、密着させる。
「あぅ…、ん、いい、いいから…もっと…」
縋り付いた指に力を込めれば、指先に皮を裂く感触が伝わる。
「痛…」
「あ、すみませ…」
痛みに顔を顰めたカカシに、咄嗟に指を外し、しがみついてい腕を緩めた。
腕がシーツに落ちる前に、浮いた背にカカシの腕が差し込まれ、グイと上体が起こされた。
「んぁ!」
一手で体勢を変えられ、繋がった状態のまま座位へと持ち込まれてしまう。
自重により更に深く抉られて、一瞬の衝動に背が撓った。
鈍痛と共に駆け上がるのは、紛れもない快感。
「せんせ、背中に腕、回して」
「え、…でも…」
「しがみつかないと、落ちちゃうよ…?」
途端、下からの突き上げに体が浮き、宙を掻いた手が目の前のカカシへと勝手に縋る。
傾いだ体を引き寄せ、衝動で流れた涙で濡れた眦を舐め上げてカカシが笑う。
「ね、危ないでしょ?」
「っ、でも…背中に傷、付けてしまいそうで…」
申し訳無さ気にカカシの背に回した指先を丸め、泣きそうな顔でイルカが告げる。
「背中に傷? 男の勲章でしょ、恋人に付けられる爪痕は」
言って笑うカカシの言葉。
それでもなお逡巡するイルカの様子に、甘える仕草でカカシは支えた体を抱き込み縋る。
「気を付けて爪痕付けないようにしてたの、気付いてたけどね…」
「…」
「それでも付けそうになる位、気持ちよかったってコトでしょ?」
「………」
カカシの囁きに、小さく頷くイルカ。
恥ずかしさ故か俯いてしまったイルカの額に、カカシは自分の額をコツンと宛て、更に甘く囁く。
「なら、俺も…付けられた方が嬉しい。イルカ先生を気持ち良くできた勲章みたいでさ」
「カカシさん…」
「ね、イルカ先生の爪痕、いっぱい付けて?」
強請る言葉が優しくイルカに浸透し、イルカは自然と目の前の体に縋り付き、汗ばむ首筋に鼻先を埋めた。
繋がった部分から広がる、鈍い感覚。
知らず腰が、小さく揺らめく。
「ごめんね、中断して。ちゃんと二人で気持ち良くなろ」
「…はい」
抱き合った状態でキスを交わし、中途半端に投げ出された行為の続きが再開される。
ギシギシとベッドが軋む音が耳障りに思いながらも、やがてそんな事など考えられなくなってしまう。
不安定な体勢で貪る快感。
出口を求めて走りながらも、カカシにしがみつける安心感。
無駄打ちされる生命の種を、孕めない自分が悔しいと感じる一瞬。
それでも中に注がれる優越感に、イルカの意識は白く飛んだ。




「正直…右手より気持ち良いセックス、したコト無いんです」
行為の後、乱れた息を整えつつ、気恥ずかし気にシーツに頬を埋めたイルカが呟く。
「…右手、ですか?」
言われた内容に思わず目を瞠り、カカシは鸚鵡返しに確認してしまう。
あからさまな言葉では無いにしろ、『右手』が示す行為はひとつしか思い当たらず、その行為自体がイルカに不似合いな気がして。
「右手…自慰なんですけどね…」
「…セックスは右手以下だった訳ですか…?」
聞き慣れた言葉でもイルカの口から出ると何故か居た堪れ無い感じがし、遠慮がちにカカシは尋ねる。
情事の名残の艶めいた吐息を吐きながら、イルカが小さく笑った。
「…ええ」
躊躇いながらもハッキリと告げられた答えに、カカシは落ち込みそうになった。
何だか、右手以下と言われた気がして。
だけど、次の瞬間には復活する。
イルカが可笑しげに、そして悪戯っぽく笑いながらカカシの耳元で囁いた言葉で。


「カカシ先生に会う迄は、ですよ」

文章目次

オフ原稿が煮詰まったので…。
エロ話に逃げてどうする自分!
さ〜、原稿やろ…32pだったプロットが、気付けば収まらなくなってんだもん。
説明ページ多過ぎで、煮詰まりました。