ぼんやりと思う事。




ぼんやりと思う。
どんなに諦めの感情を持っても、結局自分はこの人を諦めることが出来ず、
だからこの手放す事も出来ずに、ただ嫌われるのを恐れる。
触れる体温に歓喜して、指先が絡むだけでも温かい幸せな気持ちが体を満たす。

好きだと思ったのは何時だったのか、もう覚えていない。
出会って数年、長いようであっという間の時間だった。
思い返せばお互いに、様々な感情をぶつけ合ったと思う。
喜怒哀楽、全て。
時には喜び合い、そして何回か罵り合って。
それすら今では思い出と化し、
否、今でも現行で繰り返し感情をぶつけ合っている。
それでも愛情は尽きず、共に居る。

いつしか愛は情に比重を移すと聞いた事があったが、
同性という柵のせいか、不思議と今も愛の比重が大きいような気がする。
当然、当初の頃のように燃えるような激しいものではないが。
愛というか…「好き」というこの感情を大切にしなければ、きっと壊れてしまう。
形では繋ぎ止められない相手だから。
故に不安も付きまとうのだ。
今にも何かに奪われそうで。

例えば女。
例えば里。
例えば…。

数え上げれば切りがない。
不安定な自分と相手の未来。
確かなものは、繋いだ指先の感触と、そこから伝わる体温だけ。
だけど。

自分の最期だけは見えるような気がした。

死への恐怖も乗り越えたその先で、最後の一呼吸。
その吐息に乗せて、この人の名前を紡げたら。

それはなんて幸せな事だろうか。
たとえば誰も与り知らぬ場所で野垂れ死ぬような状況であっても、
孤独の裡にひとり布団の中で事切れるような状況であっても、
それだけで自分は幸せを噛みしめられるだろう。


最期の一呼吸。
最愛の音を紡ぐ一音。


この人を思って旅立てる幸福。
愛する人を最期まで愛せたのだと自己満足に胸を張って、
先立った大切な人達に自慢しよう。
だから。

だから今は、絡めた指先を解かずに。
互いの体温を分け合って、額を寄せ合って笑い合う。

「すき」

そう囁けば擽ったそうに笑う気配は、凄く間近。
ああ、触れ合える幸せ。
きっと最期はひとりだから。
時が許す限りは寄り添って、人間である事の孤独を分け合い慰め合う。
会話して、笑って、泣いて。
そして抱き合って。

人が人である限り、必ず別離はやってくるのだから。
命短し恋せよ乙女。
乙女じゃ無いけど、この言葉には頷いてしまう。
人生は短い。
特に、この人と出会って世界が変わった瞬間から、そう感じた。
残る時間のカウントダウン。
耳を塞いで、手を繋ぐ。



どうか、自分の感じる幸せの少しでも、
それを与えてくれたこの人が感じてくれていますように。



指を絡めて額を寄せて、祈る二人の願いは同じ。
声には出さずに、ただただ願う。

あなたの幸せは、私の幸せ。
あなたが居なければ、私は居ないと── 。

文章目次

カカシでもイルカでも好きな方でお読み下さい。
同じ事をお互いに思っているという話しなので。