不意に見えたご近所の縁側。
時たま見かける老爺の姿があった。
穏やかな秋の日差しの中で、皺が刻まれた指先が愛おしむ仕草で膝に丸くなった猫を撫でる。
気持ちが良いのか、猫も喉をぐるぐると鳴らし、催促するように老爺の掌に頭を押し付けた。
あまりにも温かな日常の光景に、イルカの目は釘付けになる。
それ以降、イルカは何故だか猫という存在が気になり、道端で猫を見かける度に立ち止まって、手を差し伸べるでも無く眺めていた。
ああ…いつか猫を飼おう。
丸くて温かくて、自分に寄り添ってくれる存在。
いつか猫飼おうと、イルカは思う。
縁側で日向ぼっこをする老爺の姿。
それを見た時から漠然と思っていた事が、不意に閃くように理解できた。
白い猫が良い。
少し毛足の長い、細身の猫が。
指先で毛皮を辿ればフワフワとした感触が、自分を慰めるだろう。
膝上でくつろぐ重さは、きっと自分の幸せな記憶を薄れさせないだろう。
ただ、自分は猫を撫でながら泣いてしまうかもしれないが。
「イルカ先生、猫好きなの?」
尋ねられれば即座に頷く。
どこか猫を彷彿とさせる、自分の恋人。
フワフワした猫っ毛に、掴み所のない口調と態度。
甘える様は犬にも似ているが、時折こちらの手をスルリとかわす様子は、まさしく猫のそれ。
「飼いたい?」
繋いだ手を引かれ、見つめていた猫からカカシへと視線を移した。
重ねて問われた内容に、イルカは首を傾げる。
確かに飼うおうとは思った。
それは今では無く、将来に。
だからそのまま口にして、彼の問いかけに肯定とも否定ともつかない答えを返す。
「今は、飼うつもりは無いです」
「そ、だったらオレだけを見てよ」
拗ねた口調で繋いだ手を強く握られ、注意を促される。
他に注意が向くと、拗ねて目の前をうろつく猫のように。
気紛れに擦り寄り撫でる手を求める姿は、どうしてか憎めず、ついつい甘やかして猫の気が済むまで構ってしまう。
本当に彼は猫のようだと、イルカは寂しくなった。
「ちょっと、何泣きそうな顔してんの?」
いつかこの人が自分の元を去ったら、猫を飼おうとイルカは思う。
幸せな記憶を抱いて、猫を撫でて暮らすのだ。
猫の重みと感触を慰めに。
そんな日が永遠に来なければ良いと、思いながら。
少し年をとったイルカ先生が猫を撫でているという情景が、
不意に頭を過ぎりましたそのまま書いてしまうと、
完全に死にネタか別れネタになるので、漠然とした未来への不安に変更。
読んで、少しでも「痛い」と思っていただければ、良いんですが…。
私的には別れても死んでもいないのに痛い話。
や、でもヘタレなカカシも好物なんですよ!