シーツを被った暗がりで、重なる体温に息をつく。
嵐のような交わりの後に訪れる、休息じみた静寂。
整わない吐息と、いまだ走る鼓動だけが微かに響く空間。
いつしか約束のようになってしまった、ふたりだけの時間。
お互いしか感じられない小さな空間。
「ね、大丈夫…?」
「…何、とか…」
闇に包まれた狭い隙間で交わされる、掠れた声の労りの会話。
頬に触れるカカシの胸が汗ばんでいるのが酷く嬉しいと、イルカは微笑む。
気怠さに指先すら動かすのが億劫なのだが、その湿った感触に擦り寄りたくて僅かに体を身じろがさせた。
そうすればカカシが気付いてくれるから。
気付いて、そっとイルカを引き寄せて自分の胸元にやんわりと抱き込んでくれるから。
「寒くない?」
「暑いくらいです…」
「暑い? シーツ、剥がそうか?」
「イヤ…」
気遣うカカシの問いかけに、イルカが小さく首を振り現状維持を望む。
カカシとしても、この密着した狭く閉鎖的な空間が名残惜しく、イルカの答えに嬉しさを覚える。
否定の音が、舌足らずに幼かったのにも、愛おしさが込み上げた。
「そ? 暑すぎたらちゃんと言ってね」
「大、丈夫です…無理はしてませんから…ん、」
「あ、ゴメン…抜く?」
「イヤ」
更に深く抱き寄せようと身じろいだ瞬間、いまだイルカの胎にあるカカシが動いたらしく、ほんの少しだけ眉根を寄せてイルカが呻く。
それを聞きとがめてカカシが問えば、意外な程即座に拒絶の言葉が返ってきた。
嬉しいとは思うけど、イルカの身になれば気持ち良い事ではないだろうに。
カカシは腕の中に収まるイルカの黒髪を梳く。
「無理しないで」
「ですから、してませんって…」
「でも」
「良いんです…っ! それに…ぁっ…」
カカシの胸に懐いていたイルカが、ヒクンと小さく震えた。
萎えたカカシの隙間から、コプリと胎から吐き出された体液が溢れ出たらしい。
それは重力に従い、横たわるイルカの足の付け根から太腿を伝って、シーツへと液溜まりを作った。
トロリと肌を走る感覚に、背を戦慄かせるイルカの胎。
軽い緊張が小さくそこを締め付け、入ったままのカカシが徐々に力を持ち始めてしまう。
「…っと」
「ん、ぁ!…っ…」
「うわ、どうしよ…大きくなっちゃったよ」
「…ばか…ぁ…」
「だってイルカ先生が優しく締め付けるから…それにグチョグチョでイイ感じに温かいし」
「それ以上言うな…」
「でも」
「アナタが1回で終わった試しが、今までありましたか…?」
「オレの記憶が確かならば、多分無いです」
「確かな記憶力で結構です」
言ってイルカはカカシの胸に頬をすり寄せ、感覚の鈍くなった怠い腕をその背中へと回した。
それは言葉よりも確かな、促しの仕草。
柔らかに続きを許す、求愛の行動。
「…それで、抜かなかったの?」
「そ、れもありますけど…」
「けど?」
「………俺の胎でカカシさんが育つのを…感じてみたくて…」
愛しい恋人にここまで言われ、理性が弾けない男がドコに居る?
いや、居ない。
思わずカカシは自問し都合の良い自答を弾き出す。
カカシの胸に俯き加減で擦り寄るイルカの頬は、きっと赤く熟れているだろう。
それを見たい衝動に駆られ、カカシは勢い込んで身を起こした。
「ひ、ぁ…っ…!」
シーツを跳ね上げ、擬似的な閉鎖空間を抜け出せば、繋がったまま体勢を変えられたイルカが大きく呻いた。
抱き合う体勢で腰を持ち上げられ、イルカの足が宙を掻く。
次の瞬間、完全に育ったカカシがねじ込むように、大きく胎を抉った。
「ひぅ…ッ!」
その唐突な衝動に、声にならない音がイルカの喉から迸りって、空気を振動させる。
藻掻くように手が彷徨い、やがてカカシの肩口に触れると縋るように力無く掴む。
引き始めた汗に滑るその指先をやんわりと掬い取り、カカシは自分の首へと導き、腕ごと絡めさせた。
痛みも伴っているのか、衝動に詰めた息を徐々に吐き出すイルカの姿を見守り、カカシは余りにも狭量な自分の理性に苦笑するしかなかった。
「イルカ、せんせ…痛い…?」
「いたく…は、無い、で、す…ぅ…」
「動いていい?」
「ま、だ…だめ…」
「抱き締めていい?」
「どう、ぞ…ぅ…ん…」
途切れ途切れに返されるイルカの声に、カカシは安堵の息を零す。
自分を受け入れるイルカの姿に愛しさが込み上げ、抱き締めたくて、でもそれには動かなければならず、許可を求めれば、応の言葉と首に絡んだイルカの腕に力が隠る。
自然と引き寄せられて、深くイルカの背中に腕を回して、胸が圧迫される程に抱き締めた。
密着すればする程に繋がりは深まり、自然とイルカの足が大きく開かれる。
穿たれた容積によって溢れる、先程までの残滓。
「さっきのも、溢れてきちゃったね」
「ぁ…ん…っ」
繋がった部分に指を這わせて零れた液を掬えば、イルカが体を竦ませて感触に戦慄く。
カカシ自信を咥え込んで目一杯広がった肉の輪が、その小さな刺激に収縮した。
中に引きずり込まれるような感覚。
貪欲な肉と粘膜の誘惑に、カカシは誘われるまま緩い仕草で腰を動かす。
「ぅ…ん、んっ…」
苦痛と快楽がない交ぜになった声が、噛み締め損ねたイルカの唇から漏れ、それに欲が煽られカカシは動きを強くする。
繋がった箇所から上がる水音が、イルカの羞恥心を刺激するらしく、カカシはわざと音をたてるように抉ってやる。
空気を含んだ隠った音。
肉がぶつかる音。
二人分の忙しない呼吸。
それに重ねて、揺さぶっている合間に囁く睦言と嬌声。
「も…も、駄目ぇっ…出、る…」
「ん、イっちゃって、オレもイクから…」
登り詰めた先に、脳内で炸裂する閃光。
息を詰め、駆け上がったその先から、不意に放り投げられるような開放感。
ほぼ同時、だがイルカの方の絶頂は長く続いているらしく、カカシは腕の中の体が震える感触を楽しむ。
入れられたままのカカシを、やわやわと刺激する肉の痙攣にイルカの快楽の度合いを知った。
知らず止めた呼吸を吐き出し、荒い息のままで抱き締め合う。
この瞬間がひどく幸せだった。
「大丈夫…?」
「っ…はい…」
萎えたものを引きずり出せば、その刺激すら感じてしまいイルカが小さく震える。
汗に塗れた体を抱き寄せ合い、自然な仕草で口吻を交わせば、鼓動も吐息もどちらのものか判別が付かない程に混ざり合う。
部屋に篭もって二人きり。
扉も窓も、カーテンも、全てを閉め切って外の世界を拒絶する。
そしてふたりで浸るのだ。
お互いしか存在しない閉じた空間を。
顔を見合わせて微笑み合えば、お互い以外の存在は頭の中から綺麗に消え去る。
熱が引いた体の上に、シーツを引き上げ蓑虫みたいにくるまって、更に小さな空間を作り上げる。
日が昇れば否応無く外へと踏み出し、世界を受け入れなければならないから、せめてこの空間でだけは、お互いしか認識しない日常を作るのだ。
シーツの中で肌を寄せ合い、キスを交わす。
二人だけの閉じた空間を満喫するために。
…やってるダケ。
毎日してる訳じゃ無いと思うけどさ。