ネタ帳サルベージ。中途半端。

sss ≒ memo.

【嘔吐。】 ... #01

吐いた。
それはもう、盛大に。
事の最中は何とか我慢したのだ。
痛みと吐き気。
それしか感じられなかった、男相手の初体験。
揺さぶられている最中に戻さなかった自分を褒めて欲しいと、イルカは真剣に思う。
突っ込まれている最中は確かに吐かなかった。
だが、突っ込んだ相手が出したと理解した瞬間、相手を突き飛ばしトイレに駆け込んだのもまた事実。

初めて開かれた後ろは、内臓を直で押し上げられる感触に胃が迫り上がる思いだった。
慣らされたとは言っても、それは内臓まで及ぶ訳でもなく、結果吐いた。
便器に凭れ、ゲェゲェと。
後ろから、注がれた白濁が零れようがお構いなしに、とにかく吐いた。
内臓がシェイクされる感触。
我慢が出来なかったのだ。

背中をさする手に申し訳なさが募るが、如何せん、内臓は鍛えられないのだから、許して欲しい。
初めての衝撃に筋肉が驚いたといのもあるだろう。
いつか、全身で受け入れられる日が来るのだろうか?
来ると良いなと、イルカは願う。

だって、好きで体を明け渡した相手だ。
その全てを受け入れたいと、願っているのに。

体が心を裏切った。
その事実に、歯噛みするしかなかった。

【眉間。】 ... #02

イルカ先生は困った時に、へにゃりと眉が下がる。
そして、眉間にくっきりと皺が寄っちゃうの。
その顔が大好きだった。

イルカ先生を困らせてるのは、紛れもなくオレで。
オレのせいでイルカ先生が困った顔をする。
他の誰のせいでもなく、オレのせいで。
それが嬉しくて、ついつい困らせる事を口にする。

それは業務に関する事もあるけれど、殆どは閨の話題から進展する、イルカ先生が苦手としているソレで。
毎回確実に、イルカ先生は困った顔をオレに晒してくれる。

ああ、もう!
その眉、眉間の皺が! 愛しいったら!

だから、困った顔のイルカ先生の眉間に、今日も唇を押し当てる。
オレの為に困って出来るこの皺が、溜まらなく可愛いと思うのだ。

【ぺたり。】 ... #03

茹だるくらいに暑い、風のない夜。
クーラーなんて贅沢な存在ががイルカの部屋にある訳もなく、扇風機の首を固定して全開で回す。
古い機械特有のモーター音のせいか、ひどく懐古的な気分になった。
もっとも、現状は懐かしむ子供時代からは想像出来ないくらいに、退廃的で怠惰なものであるが。


風呂上がりそのままの姿。
一言で言えば、素っ裸。
それが一人なら問題は無い。
問題なのは、男二人がひっついた状態で裸な事。


「あ〜つ〜い〜ッ」

水滴がしたたる生乾きの髪を、カカシの胸にまき散らし素肌に頬を預けてイルカは呟く。
触れた部分に汗が滲み、滑りそうになるのを無理矢理固定して。

「だったら離れなさいよ、イルカ先生」
「ヤです」

カカシの言葉にムキになったようにイルカは擦り寄る。
汗で滑るカカシの首に腕を回し、胸板にグリグリと頬を押し付けて。
さらに足を絡めて、タコイカのよう全身で縋り付く。

「ちょっと、ちょっと…」
「ヤですったら!」
「まだ、何も言って無いでしょ」
「離せって言うつもりでしょう? 暑いから」

四肢全てを使って拘束されながらも、カカシは首たけを傾けて胸元のイルカを覗き込む。
黒い瞳が暑さで朦朧としているのが何となくいかがわしく思えて、コクリと知らず喉を鳴らした。

「違いますって」

あらぬ場所に熱が隠りそうになるのを心頭滅却で宥め賺し、イルカの濡れた髪の毛を撫でる。
暑さで不快指数が鰻登りな恋人の、ご機嫌を損ねないように努力する自分がいじましいと思いながら。

【あんあん。】 ... #04

これは習い性なのだろうと、イルカは唇を噛み締める。
ゴツイ自分を組み敷き、あまつさえ楽しげにアチコチを弄り倒すカカシを不思議に思ったりもするが、イルカとてその手を嫌悪感無く受け入れているのだ、その辺はお互い様なのだろうと結論付ける。
だがしかし、触れる指先の感触に体を硬くしなくなった今、敏感になってしまった皮膚に触れる感触に、あらぬ声を必死に押し止めるのがきつくなってきた。
初めは痛みによる呻きを、噛み殺す為に閉ざした唇。
しかし今は、油断すると上がってしまう嬌声を押し止める為の行為。

普段は無骨な凶器を握る手が、自分の肌を優しく撫で回す優越感。
触れられた先から、溶けて崩れそうな感覚。

だからイルカは唇を噛み締め、声を殺す。
男の自分が組み敷かれた挙げ句、あられもなく喘ぐ姿を認めたく無くて。
突っ込まれて気持ち良いなんて、自覚したくなくて。
今更現実なんか知らされたくないのだ。

あくまでも男で居たいという考えは、男同士を許容した自分には甘い考えなんだろうか。
それでも、胸をまさぐる手に、乳首を食む唇に、密かな苛立ちは消える事は無い。

でも、と溜息をひとつ。

たまには自分に正直にになって、あられもない嬌声を上げてみたいとも思うのだ。
声を噛み殺すのが難しくなってきた最近。
唇が決壊する日は、案外近いのかもしれない。

その時、自分はどう思うのだろう。
そして何より、そんな声を上げる自分を、カカシはどう受け止めるのかが不安だった。


不安になるイルカは気付かない。
件のカカシが、「如何にイルカを『あんあん』言わせるか」を課題に、日々誠意努力中な事実を。

【攻防戦。】 ... #05

容赦無く翻る足を寸での所でかわし、カカシは知らず浮いた冷や汗を拭う。
だが、そんな隙すらチャンスとばかりに、間髪入れずに次の蹴りが側頭部目掛けて飛来した。

「…ぅわ!」

それも一重の差で避けながら、蹴りを仕掛けた人物が、何故中忍位に留まっているのかを真剣に疑問に思った。
ベッドという狭い空間ながら、マウントを取られる以前に抜け出し、更に攻撃を仕掛けるタイミングすら秀逸。
一閃した蹴りを避けられ、返す足で鋭い二蹴目をかましてくる強かさ。
避る度に攻撃は精度を増し、上忍のカカシで身が危うい一撃を容赦無く放つのだ。

「アンタ、本当に無駄に勿体ない…」
「んな事ぁどうでも良いです。今日は気分じゃないんで」

括った髪はとうに下ろされ、くっきりとした鎖骨の上に散らばる婀娜っぽさ。
上半身はすでに裸で、佇む場所はベッドの上。
サイドランプのオレンジに浮かぶ滑らかな肌と、浮かぶ傷のコントラストが艶めかしい。
生唾ものの光景なのにこの仕打ちと、カカシは内心溜息をつく。
そんな一瞬の間でさえも、イルカは見逃さずに鋭い蹴りを放って来るのだから、始末に負えない。

「あ〜、もう! 諦めます! 今日は寝るだけにしますって!」
「判ってくれて嬉しいです、カカシ先生」

降参。と両手を上げれば、可愛いとさえ言ってしまえる笑みを、ニッコリと返してくれる。
嬉しい、と言う台詞は棒読みだったが。
それでもカカシはイルカが好きだし、愛しいと思う。
無理矢理やって出来ない事は無いだろうが、恐らく真っ白なシーツは血塗れとなるだろう。
ぞっとしないなと苦笑し、カカシは攻撃を止めたイルカの頬に小さなキスをする。
そしてその男らしい体をを腕に抱き込んで、コロリとベッドに転がった。


時期は年末。師走──坊さんも走るとは良くも言ったもので、ご多分に漏れずイルカは忙しかった。
寝食を削り、目の下に隈が出来る位には。
カカシも暇だとは言えない日々に追われ、久々に挑んだ夜の生活…の筈だったのだが、イルカにはカカシとの触れ合いよりも、「明日の健康」の方が大事だったらしい。

他人に迷惑を掛けるのを極端に嫌がるイルカ。
今、事に及んだら今までの禁欲の分が付加され、明日はまともに過ごせないだろう事はカカシにも予想できる。
その気持ちは判るが、やはり寂しいとカカシはイルカの体を抱き込み、首筋に鼻先を埋めて打ち拉がれた。
それでも

「あと2日くらいで目途が付きますから…ね?」

そんなイルカの囁きに、一気に気分が浮上するのだから、自分が少し情けない。
おまけにキスまで貰ったら、お預けくった犬みたいに良い子でステイの自分の理性。

ああ、男って単純。

見事な肢体の同僚が高笑いしながら言った台詞を噛み締める、そんな寒い夜の出来事だった。

【呼ぶ音。】 ... #06

生徒や他人の前ではあくまでも「先生」
それは特別取り決めた訳でも無く、自然に。
お互いに「先生」と呼び合い、外では「先生」の顔をする。
最初の癖がなかなか抜けず、ズルズルと今まで来たが、それでもお互いしか居ない時、第三者の介入が皆無な場合、イルカはカカシを『カカシさん』と呼ぶ。
しかしカカシの方はあくまでも、『イルカ先生』と呼び続け、ベッドで果てる時すら先生呼ばわりなのだ。
それでもその『先生』の音は酷く甘く、イルカもそれが判るから嬉しくて微笑み返してしまう。
カカシがこんなのも甘く『先生』と呼ぶ存在は、自分しか居ないと理解して。
たまに不公平だと思う時もあるが、それもある一瞬の出来事で許してしまった自分は、カカシに甘いとイルカは苦笑混じりに吐息を零した。



ほんの一瞬。
しかも毎回では無い、稀な瞬間。


お互いにドロドロになるまで抱き合って、登り詰め、忙しない吐息で口付けを交わす。
顔中に降るように落とされる唇の感触が嬉しくて、微睡みそうになるイルカの耳に、纏い付く髪を優しく掻き上げて囁きを落とすのだ。

「…イルカ」

その音。掠れた吐息混じりの声。
鼓膜が震え、肌も震える。
大切な宝物を包むかのように、優しく囁かれる音は紛れもなく自分の名。
愛されてると思った。無条件に。



だからイルカは、不公平にも思える先生呼ばわりに不満を持たない。
だって、どんな呼ばれ方をしようとも、カカシの囁く音は甘く優しいのだから。
尤も、耳元で囁かれたあの音が、一番甘かったのは言うまでも無い。
それこそ体の芯が溶ける程に。

【鎖帷子。】 ... #07

「俺が中忍になった時分は、まだモノホンの鎖帷子でしたよね…」


不意に、イルカが脱ぎ捨てた服を手に取り、しみじみと言った。
何の事かとそちらに視線を向ければ、規定服のアンダーシャツの更に下に着る、帷子を眺めているのが見えた。

「わ、イルカ先生ってば真面目。それ、ちゃんと着てるんですか」

思わずカカシが口にした言葉に、イルカは苦笑した。
帷子の着用は、義務なのだ。
戦忍でも軽量化を図る者は着用しないのは知っていたが、如何せん里内業務に就いている者は服装規定を外れてはいけない規則があるのだ。
それこそ、抜き打ちで検査がある位に、当たり前の事だった。

「着ない人間も居ますけど、検査に引っ掛かると面倒なんで…って、上忍は検査が無いんでしたっけ?」
「うん、された記憶無いね〜」
「悔しいですけど、力量の差ですね、きっと」
「力量?」
「自分の命を守れる力量です」

くすくす笑いながら、イルカは脱いだ衣服を手持ちぶさたに丁寧に畳む。当然、カカシの分も。

「でも、何でいきなり鎖帷子?」
「や、カカシさん…胸毛あるじゃないですか、色も生え方も薄いけど」
「薄い言わないで下さいよ〜って何の関係が…」
「だから鎖帷子ですよ」

言うイルカの裸の胸にはあまり体毛が無かった。
ついでに言うなら、脇も。

「イルカ先生、ツルツルですけど…え、まさか」
「多分、コレのせいでしょうね」

改良を重ねられ、軽く、元の鎖帷子よりも強度が上がった今の帷子を、服を広げる仕草でイルカはカカシに差し出す。
+
「俺、下忍になる前から着てたんですよね…で、二次成長期に摩擦されまくっちゃって…」
「イマイチ、生えなくなったと」
「はい」

確かにと、カカシは当時支給された鎖帷子を思い出してみる。
今現在支給されているシャツ型のそれと比べ、何倍も重く、文字通りに間違いなく『鎖帷子』だったのが、記憶のスミに引っ掛かって残っていた。
同時に、「こんな重いモン、着れるかい!」と突っ込んだのも。
実際、それを着用する事によって、「切る」という攻撃から体が守られるのは事実なのだが、如何せん子供の自分には重すぎだと今でも思う。

「よく着れましたね〜、重かったでしょ?」
「両親共に忍でしたからね、着用する事自体には疑いも持ちませんでしたし、子供時分は流石に軽いのを設えてもらってましたから。でも、そのせいで体毛が薄くなるってのは…思いもしませんでしたけどね」

二次成長の体の表面を覆う鎖の網。
細かな造りのそれは、イルカが動く度に素晴らしい威力で彼の体毛を、容赦無く引き抜き続けたのだろう。
あたかも脱毛機のように。
そして当然、摩擦され続けた皮膚はその環境に慣れ、いつしか体毛の生え難い皮膚に変化した。

「ま、良いじゃないの、実害は無いんですし」
「でも、ちょっと…恥ずかしいんですよ」
「じゃあ、発想の転換」
「?」
「『頭じゃなくて良かった』って思いましょうよ」
「………確かに」

髪の毛を掻き上げられ、額の生え際に触れるキスの感触に、イルカは苦笑する。
カカシの言う発想の転換に、思わず頷きながら。
額に与えられた口付けが、唇まで降りて来るまであと数秒。
その感触を味わう為に、イルカは笑いながら瞼を降ろした。

【嫉妬。】 ... #08

カカシの眼窩から、写輪眼の摘出が行われた。
長年、彼の視神経に負荷を掛け続けたそれは、コロリと容易に取り出され、無機質なアルミのトレイの上でどこか預かり知らぬ場所を睨め付けている。

怨嗟か、安堵か。

赤いトロリとした色を湛えたままで、片目分の写輪眼は長い勤めを終え、次代に引き継がれる事無く処分されるのだ。
結局、カカシ以外の適合者は現れはしなかったから。
彼自身、降って湧いたような状況での移植だった。
移植か否か、それ以外には許されない状況だったから。
失った者を左目に宿し、共に生きる。
それがカカシが自らに科した罰であり、生き甲斐だったのだから。
現に彼は、どんな戦場からも生還を果たした。
彼の体に宿るのは、1人ではなく2人分の命なのだから。

写輪眼の摘出と処分。
それは、カカシが宿した命の抹消。
彼は再び、親友を亡くすのだ。

「イルカせんせ…?」

摘出前にコピーした術の全てを書面に書き起こし、カカシは左目を失った。
それでも摘出後、その足でイルカの元へと帰って来てくれた。
呼ばれて、震える指を包帯に覆われた左目へと伸ばす。
厳重に巻かれた包帯の下、指に触れるのは平らな感触。その感触に更に震えは止まらなくなった。

「ゴメンネ、眼窩の状態が安定したら義眼を入れてもらいますから」

申し訳無さそうに言うカカシに、イルカは頭を横に降る。
違うのだ。それは見当違いな言葉なのだ。
そう否定したい言葉は詰まり、代わりにイルカの両目から涙が溢れた。
言葉も、音も無く。ただ涙が止まらない。
イルカは目の前に座るカカシの頭を抱え込み、頬摺りをした。
濡れた頬に張り付く、銀の髪の感触が愛おしい。

「………嬉しい」

抱え込んだカカシの頭を放し、その頬に両手を添えてイルカはカカシの顔を見つめる。
包帯に覆われた平らな左目に口付け、笑った。

「やっと…アンタが俺だけのものになった」

ずっとずっと嫉妬していた。
亡き故人のものだという写輪眼。それがカカシの体内に存在する事に。
カカシの心情や当時の状況を理解出来ても、感情はいつも飽和寸前だったのだから。
忌まわしいとは思わなかった。
だって、あれはカカシを今まで生かしてくれていた、最大の理由であり存在だったから。
だけど、カカシが左目を操る度に寂しくもなった。
昔の恋人に、彼を盗られたみたいで。

「ごめんなさい…俺、嬉しいんです。カカシさんから写輪眼が摘出されたのは悔やむべき事なのに…ごめんなさい…」

止まらない歓喜の涙に、イルカは笑いながらカカシへと自分の罪深い感情を吐露する。
悲しい気持ちは確かにあるけど、それを凌駕する程の喜びがイルカの中を駆け巡っているのだ。

「イルカ先生…」

呆然とした声がイルカの耳を擽る。
だけど、今言った事はイルカの正直な気持ちであり、今のカカシに偽る必要は無い。
例え、それが原因で嫌われたとしても。

「ねぇ…それってさ、写輪眼無しでもオレはイルカ先生と居ても良いって事…?」

唐突に予想もしなかった事を聞いた。
今度はイルカが呆然とカカシを見つめる。

「ね、もう『コピー忍者』じゃ無いけど、イルカ先生の腕を独占しても良いのかなぁ?」

何を阿呆な事を言っているのだろうかと、イルカは本気で驚いた。
十年近い時間を過ごして尚、この言葉。
だが、瞬時に理解する。
イルカが不安だったように、カカシもまた不安を抱えていたのだろう。
共に有る為に必要な何か、その内の一つがカカシにとっては写輪眼だったのかもしれない。

「何、馬鹿言ってるんですか…俺は『コピー忍者』なんて知りません、要りません…『はたけカカシ』が欲しいんです」
「そ、っか…良かった」
「はい」

縋り付くように抱き締めるカカシの腕に、イルカは浸る。
今、初めて自分だけのものになった存在。
片目でも忍は続けられる。
だから様々な不安はまだ付きまとう。だが、嫉妬はもう感じなくても良いのだ。
それだけで、この上なく幸せだった。

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