真珠はそれを孕む母貝にとっては異物なのだ。
自分の中に派生、もしくは侵入した異物から、自分を守る為に繭のような粘液で包み込み、異物が与える痛みを緩和する。
丸く丸く角を取り、自分を傷つけないように育てて行くのだ。
この人は里にとっては異質な存在。
里の人間は異質な人間を排除するのではなく、当たり障りのない態度で包み込み、中に取り込んで許容した。
この人は自らを異質だと理解しながらも、包まれる空気に逆らわず、それでも自分を貫いた。
それは真珠が出来上がる工程と、よく似た現象。
ああ、本当に…真珠のように稀少な人だと、カカシは思う。
深海の底で貝の胎内に包まれて、自ら放つ輝きの価値など知らずに眠る存在。
一度水面に姿を現してしまえば、誰もがそれを手に入れようと躍起になる。
宝石と呼ばれるものの中で唯一、生物の胎で作られる物体。
シーツに広がる黒髪を眺めて、カカシは溜息をつく。
気絶するように眠りに落ちた彼の規則正しい寝息が聞こえる。
ふたりで並んで寝ているにも拘わらず、ひとり体を丸くして四肢を丸めて眠る姿は、まるで何かから自分を守るかのようにも見えて、少し悲しい。
こんなにも近くに居るのに。
ベッドの上に設えられた大きな窓。
カーテンの隙間から入り込む月明かりは、意外な程に明るく部屋を照らし出す。
剥き出しの裸の肩。
俯くように傾いだ首。
綺麗に隆起する肩胛骨と、背骨。
そして背中の真ん中に刻まれた、傷跡。
身じろぎすらしない彫刻めいた静かな姿に居たたまれず視線を下半身へと向ければ、
先程までの行為を突き付けるような有様が目に飛び込んできた。
濡れた下肢に、乾きかけた白濁がこびりついた肌。
重なり、閉じた太腿を流れる粘液の筋は未だ乾きを見せて居ない。
その光景が凄く嬉しかった。
この静かな空間の中、眠る男を手に入れた現実を物語っていて。
行為の最中でも、自分に縋らなかったイルカの姿を思い出し、カカシは溜息をつく。
それでも最後の最後、理性も意識も限界に登り詰めた辺りで、必至にカカシの首にしがみついた姿には感動すら覚えた。
人に触れられる事に慣れていないと怯えていた。
人が傍にいる事にも。
ましてや他者と共に眠りについた経験など無いと。
その言葉にイルカの過去、特に幼少時代が垣間見えて酷く悲しかった。
同時に、酷く嬉しかったのだ。
それは言外に、自分に触れたのはカカシだけだと告白したようなもので。
他人の触れた事のない至宝を手に入れた歓喜。
誰にも認められず、採取されなかった深海の真珠。
それを幸運にも手に入れた自分。
眠るイルカのこめかみに唇を落とし、カカシは笑う。
きっとこれからイルカは磨かれる。
自分に愛されて、そして自分を愛して纏う雰囲気は一変するだろう。
そうなってから欲しいと思っても遅いのだ。
もうイルカはカカシの腕に収まった。
この腕の中だけで愛でて、真綿や天鵞絨で包むように優しく触れて、幸せにするのだ。
夜中ひとりでこそそりと眺める、宝石のように。
だけど、とカカシは閉じた瞼にも口づけして苦笑する。
四肢を縮めて眠る姿を目にして、体温を感じられない寂しさが残るのが否めない。
「せめて寄り添って寝るくらいはしたいな〜、なんて」
行為の熱と、カカシが与えた痛み、そしてそれを凌駕する快楽に流れた涙の跡が残る頬。そこを労るように指先で撫で、少し腫れぼったい眦に愛おしさを込めて口付ける。
「早く、オレに慣れてね、イルカ先生」
寝息を立てるイルカの耳に、柔らかく囁きカカシはベッドを降りる。
先程目にしたイルカの下肢の汚れがあまりにも凄くて。
2人分の精液のを浴びた姿は凄絶で。
そうさせたのが自分だと表情が緩むのを引き締めて、せめて軽くでも処理をしようと洗面所へと歩き出す。
鼻歌まじりの軽い足取りに、今の幸福感が表れるのは否めない。
月明かりの下、寝息を立てる筈のイルカの耳朶が赤く染まった事に気付かずに。
真珠にたとえた私が一番痛い人間なのは判ってます…。
判ってますけど、突っ込まないで…(涙)
真珠って異物なんですよ〜って話しなんで。
そしてアイタタな私は単なる淡水マニア。某ビーズショップで淡水が出ると、
間違いなく購入する阿呆です…手元に使われてない淡水がいっぱい。
こないだ買ったベージュのバロックど〜っすべ?予想したよりデカイんですもん。